臨月の妊婦さんの逆子の治療
臨月の妊婦さんの逆子の治療
FT塾講師 神林 一隆
今年は、臨月の妊婦さんの逆子の治療を5件経験しました。
通常、7~9ヶ月目の妊婦さんであれば、治療計画も立てやすく、運動も併用すれば、高確率で良い方向に向かいます。
今回の5人は、病院で帝王切開が決まっていて、約2週間で逆子が戻らなければ手術という状況でした。結果から申しますと、3人の逆子は治り、2人は帝王切開になりました。
今回フロンティアに発表し、先生方のご意見、ご指導を頂き、今後の臨床に役立てたいと思い、5件の症例を振り返ってみます。
臨月になると、身体はホルモン状態、骨盤の位置、六部定位の寸口の脈の変化、頭蓋骨の縫合の緊張度など、出産日に向けての準備に入ります。
通常の三陰交のお灸(安産)や、骨盤底筋への施術の他、実家などで出産する方も多いので、ストレスが溜まっていることが多く、メンタルのケアなどを中心とした治療をします。
今回の逆子治療の施術回数は、時間的制約もあり、どの方も1~3回でした。
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施術前は限られた時間で何を優先すれば良いかをシュミレーションしました。
症例1 30代女性 令和2年3月
2週間後に帝王切開が決まっているが、知り合いから鍼灸が良いと勧められ来院。
初診時、お腹の下垂があり(骨盤にお腹が、かなり乗った感じ)、姿勢変換時の腰の痛みと猫背が著明。
寸口脈 やや遅、沈 足が冷たい、下腿の下三分の一迄、手背センサーでst、
舌の裏側の血管が薄紫(やや瘀血)
脈診 腎メイン
治療
左太谿とstの強い右陽谷に置鍼(15分)右至陰穴に透熱灸10壮すえる。
側臥位にて仙骨を緩める手技、骨盤が下がっている側の内側広筋が硬くなっているので指圧して緩める。
お腹の重みが骨盤にかかっているので、伸縮テープで鼠径部から上に向けて、サスペンダーのように引っ張り上げるテープを、前3本、後方3本。
少しでも赤ちゃんが動くスペースを作るため、毎日テープを張り替えるように伝えた。
4日後の検診で逆子が治っていると言われたと連絡がありました。
症例2 30代女性 令和2年6月
今月末、第二子を出産する予定。先月末に逆子と診断されたが、第一子も逆子だったが、戻ったので心配していなかった。今月に入っても、頭が上に向いたままなので、医師に帝王切開の予定を組まれ、不安になり来院。
初診時
お腹を触診すると、皮下に赤ちゃんの頭を蝕知できた。上の子の関係で、今日と来週1回しか来院できないという。
寸口の脈 沈、遅 CSF(脳脊髄液の流れ。カイロプラクティックやオステオパシーに手技がある)は遅く、免疫的にも良い状態とは言えない。
至陰は左右ともst。お腹を4区画に分けると(木村先生式)、右下方にstがある。
脈診 風邪のスパイラルに反応 風邪を治療した後は腎メインになった。
治療
一つ一つの反応をsmに変えて行こうと思っていたが、インスピレーションが湧いて、施術の手数を極限まで減らし、少ない手技を深く効かせた方が良いと感じた。
左右の至陰をFTし、お灸の壮数を決める事にした。
左→15壮 右→24壮のお灸をした。
側臥位にて、後頭骨と仙骨に軽く手を当てて、脳脊髄液の流れを促した(5分)
腰の命門穴に皮内鍼を刺入して施術を終えた。
1週間後に2回目の予約を入れて帰られた。
3日後、夜中にお腹の子供が凄く動いた感覚があったという連絡を受けたが、検診では逆子のままだった。
2回目の施術
夜8時過ぎに来院。食事の用意をして来た。お母さんは本当に忙しい。
今日は顎関節のバランスが悪い。恐らく、前からそうだったと思うが、1回目は気付かなかった。入江式顎関節治療(IP治療)をして、咬筋と側頭筋のバランスをとった。
この後の患者さんがいなかったので、1時間近く雑談をした。話の途中で何回も泣いたので、帰りはスッキリしたらしい。リラックスする事は大事なので528ヘルツの音楽CDを、お腹のお子さんと聞くように渡した。(528ヘルツの音楽は脳を自然調律する。検索してみて下さい)その後連絡も無かったので手術になったと思っていた。
逆子は何時の間にか治ったらしく、出産後に事後報告があった。今考えると、顎関節の治療は有効だと思う。顎関節を調整する事で、荷重関節仙腸関節、股関節に影響があったと考えられる。頭蓋骨の縫合も調整されれば、脳脊髄液を通して子供に良い影響があったかも知れない。
症例3 30代女性 令和2年11月
ホームページの問い合わせで、今月26日に帝王切開が決まっているので、それまでに出来る事をしたいとの事。
1回目
座位で身体を診る。耳の高さ(頸椎1~2番のズレが分かる)をチェック、
この人は顎関節の歪み、肩背部の凝りなどが強い。
右仙骨が下垂気味なので、足を組む癖がある。下垂を持ち上げようとするので、自然と右足を上に乗せて足を組む事が多い。寸口の脈は、やや遅、やや浮。
左右の至陰をFTして、施灸が必要な方に15壮。側臥位で仙骨、大腿内側を緩める。
2回目
お医者さんで診て貰ったが逆子は戻っていない。前回と同じ治療をし、腰の命門に皮内鍼を刺入。
確認すると家事の合間にチョコレートをつまみながら過ごしているという。チョコレートは食べ過ぎると胆のうと相性が良くない事と、糖分過多は靭帯を緩めてしまうので控えるように伝えた。
3回目
26日の入院の準備を余儀なくされる。朝の施術だが顔が暗い(半ばあきらめ顔)
今日が最後の施術になるだろう。
何かやり残している事はないか、見逃している場所はないか、結果を求め過ぎて、心を込める事を忘れていないか。至陰のお灸、三陰交の焼鍼。一つ一つの手技を通しながら確認していた。そして、お子さんとの対話が足りないと感じた。もうすぐ、この世に出ようとしている命は、外界の状態を感じ取っている。そう言えば、私の息子が2歳未満の時に言っていた事を思い出した。「お空」に色々な動物の乗り物があって、象に乗ればママの所に来れるのが分かったから乗ったら、髭のおじいちゃんが後ろから押してくれて、くるんくるんと2回転してママのお腹に入ったと。そうだ、このお腹の子供と対話しようと思い、軽くお腹と背中に手を当てて、子供が天から降りて来て、お母さんのお腹に正しい位置で、入るイメージングをする様な対話をした。
時間にして5分位だと思う。施術を終えて、お母さんに今日の午後の病院の検診の結果は連絡して下さいと告げた。
午後4時に電話があった。医師も助産師さんも驚きの喜びの報告だった。
帝王切開はなくなり、普通分娩の準備をする事となった。
症例4 20代女性 令和2年8月
次は帝王切開になった症例です。
2週間後に逆子の手術が決まっている。
初診時
触診するとお腹が硬い
寸口脈 やや遅、やや浮
初産なので緊張気味
所謂健康体なので、自分も安心して至陰へのお灸、側臥位での仙骨の調整を行なった。
2回目
逆子に変化はなかった。前回と同じ施術と、腰の命門へ皮内鍼を刺入した。
3回目
お腹の中で良く動くが、頭が下半分に行く事はないという。
至陰のお灸を自宅でもすえるように場所を教え、残りの毎日を自宅でやって貰ったが、逆子は治らず手術となりました。
症例5 30代女性 令和2年9月
来週に帝王切開の手術を予定している。8ヶ月の時に1回逆子になったが、体操をして治ったが、先週の検診で、再度逆子になってしまった。
寸口の脈 やや数 やや浮
頭の百会がブヨブヨに感じる(精神的にくたびれがある方に多い)
実家と自宅が近く、行き来する事が多い。
昔から父親との相性が良くなく、1回目の逆子になる前にも父親と大喧嘩をした。
自宅に戻り暫くすると逆子は戻ったが、今回も逆子になる数日前、又父親と口論になり、感情的になったという。
妊婦さんの体調、感情は、お腹の子供に多大な影響を与える事を認識させられた。
治療
至陰のお灸 左10壮、右20壮 側臥位にて仙骨と内側広筋を緩めた。
頭部に散鍼を加えた。その後、手術にて無事出産したと報告があった。
考察
今回、ご縁を頂き、出産直前の逆子の施術をさせて頂いた。先ず絶対条件として妊婦さんの体調を崩すような手技や刺激は与えないようにする。
温故知新、至陰の灸など、昔からの伝統的な治療を大切にしながら、患者さんの身体に合わせて自分の手技をする。昔柔道整復師の師匠から、脱臼の治療において「成功すれば感謝、失敗すればヤブ」と言われた。脱臼は患者さんが自覚できる程、結果が明らかだ。
今回もそういった意味では、結果は求められるし、それに応じたい気持ちが強かった。
勝負に例えるのは抵抗があるが、3勝2敗と言えば決して良い結果とは言えない。
患者さんとは一期一会、そして感謝して仕事にあたり、一度の人生を何に懸けるのか、毎日の出会いの中で、何を選択するかを真剣に考えなければと思いました。
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