噛み(神)合わせ
噛み(神)合わせ
FT塾講師 神林 一隆
日常の臨床の中で、噛み合わせが良くなる事で長年悩んでいた身体の痛み又は姿勢が良くなることを経験しています。今回、坐骨神経痛を治療する過程で上部頚椎や頭蓋部を調整した結果、噛み合わせが良くなり身体全体のバランスが取れました。
患者さんが噛み合わせの治療を専門に行なう歯科医の先生でしたので、話もよく聞く事ができた貴重な経験でした。
坐骨神経について
67歳 歯科医
発症 2025年 1月下旬
腰痛を伴う右大腿から母趾までのしびれ、右肩が下がり、体幹は右に傾きがある。身体が傾いた側に神経痛がある場合、身体が傾いた側と反対に神経痛がある場合より難治であることが多い。
姿勢により坐骨神経沿いに電気が走るようなしびれがあり、仕事にとても差し支えている。
座位から立位になる姿勢変換時に腰痛がある。大学病院で手術を勧められるが、休診にする事は出来ず、整形外科で週1~2回のリハビリテーションをしているが症状が変わらない。歯科の患者さんの紹介で来院された。
治療
脈状は沈んでいる。入江式手掌診では右下焦がst。もし脈状が浮いていたり、入江式で上焦がstだった場合は、すぐに坐骨神経痛の症状を治療する前に、風邪や上半身の治療を優先する事になっただろう。患者さんは、脈は沈で下焦でstなので愁訴を治療する事になった。
経脈診
右胆メインの実の症
胆経に寒冷の邪が入り、大腿後側や下腿外側に強い痙直感やしびれがある。
IP治療の後、痛みの強い箇所に対しては、痛みが深い所にあるという事は、浅い所は虚しているので軽く補法を加えた。
2回目
経脈診すると任脈、督脈の奇経の証
今までの溜め込んでいた病邪が吹き出しているようだ。
この二経は、下極の兪から起こるという関係で、先天の気と関わりが深い。
入江先生がコレラにかかった時、任脈、督脈で治した経験が載っているが、奇経、特に任脈、督脈は、コロナの後遺症の時にもかなり効果があったように思える。任脈、督脈のIP治療の後、stの反応がある背部の兪穴(厥陰兪、胃兪、腎兪等)に施灸をした。
その後、月2回の周期で治療を行なった。胃経、胆経のメイン治療が多かった。
初回の治療ではメインの光明と外関のIP治療だったが、それ以降はやはりサブである太衝と大陵を加えた四穴治療(入江原法)の方がより効果があった。兪穴への補瀉は鍼の時は患者さんの呼吸のタイミングに合わせて手技を行ない、灸はsmになる壮数により刺激量を調整した。
冷えによる痛みが取れない箇所には斉刺を使った。斉刺とは『霊枢/官鍼篇』に書いてある方法でまず痛む箇所に鍼を刺入しその両傍に1本ずつ刺入した。
9回目
経脈の流れが良くなったので身体も軽く気分も良いのでゴルフをしたいとの事。
初めからすれば考えられないので、頑張りましょうと励ました。
構造的に骨盤と L5の変位を矯正する目的で SOTというカイロプラクティックのブロックテクニックを行なった。右の腸骨陵と左大転子に三角ブロックを入れ支点を作り、テコの作用で左短下肢の解消、骨盤右前方変位を矯正した。
【 三角ブロック 】

L5は右に回旋していたので、L5の右側の岸膀胱経に瀉の円皮鍼を入れることにより正常位に戻した。次に右側臥位にてstの残存している箇所に印をつけて(この場合5ヶ所あった)鍼管を一つ一つの箇所に当ててFTをして、5ヶ所のstが1~2ヶ所を残してsmになる所があったので、(stが一番強い所でも良いかも)そこに刺鍼して、その上から棒灸にて(ご本人が熱さを我慢できる範囲で)施灸した。残存した1~2ヶ所がsmになった。
赤丸、黒丸療法
初診から半年が過ぎた。望んでいたゴルフも出来るようになったが、無理をすると右母趾に軽いしびれが出て来てしまう。以前から気になっていた右膝の捻れについて、ご本人は「昔、サッカーをやっていて捻った事と、歯科用の椅子の昇降ペダルを踏む時に無理をしている」と言う。この状態を、治療時だけでなく、ご自宅でも続けられる治療を探して 思いついたのが、以前フロンティアで紹介された高崎市の内科医の飯島先生の黒丸治療だった。stな場所にマジックペンで黒丸を書いていく飯島先生の治療を参考にさせて頂く事にした。(詳しくはフロンティア22号・27号・29号・31号を読んで下さい)
今回は 黒丸と赤丸を補瀉として使い分けた。大抵の場合、膝の外側と内側では極性(補瀉)が振り分けられる。この場合、内側を赤丸、外側を黒丸にマジックペンでstな箇所に丸を書いた。自分で消えそうになったら上からなぞってもらうようにした。
軟部組織が緩むので、かなり有効な手技だと思います。
噛み(神)合わせとは
今回 坐骨神経痛が良くなり始めた頃から最後の仕上げとして施術をしていたのが、上部頚椎の治療でした。実は初診時、仰臥位にて検査診断をしていて最も気になっていたのが、上部頚椎と頭蓋骨の歪みでした。文章の最初に書いた様に、脈が沈み、下焦の反応が強く出ていたので、先ずしっかり愁訴部を含め、体幹部と四肢を整えるのが治療の優先順位でした。症状も良い方に安定して来たので、顎関節、頚椎1番、2番の治療に着手しました。
顎関節開閉時に真っ先にぶつかるのが、閉口時は最後臼歯で、開口時は顎関節の下顎頭で、下顎の運動の支点となるのが第一頚椎、第二頚椎で形成する環軸関節です。
頭のいろんな動きには、環軸関節が関与します。これは歯の咬合と関係があります。
理想的な咬合平衡面の延長と第二頚椎歯突起が一致するからです。顎関節が歪めば上部頚椎が不安定になり、それは全身の歪みになって行きます。
入江式の顎関節治療も全身に影響すると言っています。
また上部頚椎が歪めば顎関節も不安定になり、蝶形骨を圧迫し 視床下部を含め、延髄まで圧迫してしまい、自律神経に影響を与え、ホルモンバランスも崩す事があります。
第1頸椎と第2頸椎の支点を良い状態に戻せば全体の筋肉の緊張が取れ、身体全体のバランスが取れます。
患者さんに BBO(咬合)理論というものを教えて頂いたので調べてみると、第一、第二頚椎を顎運動の中心と考えて、歯の高さを BBO理論の基準に整え、前後左右のバランスが取れた噛み合わせに治療するようです。そして全身と噛み合わせの再構築を行なうとの事でした。
患者さんは歯の高さが足りず、顎を本来の位置に安定させるため高さ調整のスプリントを入れていたのですが、治療を受ける度に嚙み合わせが変わる事に驚きながらも、スプリントの高さを削り調整していると話して下さいました。全身のバランス(上部頚椎を含む)を整えて行く事で噛み合わせが良くなり、神経痛や姿勢が改善されたようです。
以下は実際の上部頸椎の治療法です。
左右の乳様突起部に補と瀉の円皮鍼を入れます。
次に促通位(そくつうい)リリース という方法を使います。
患者さんを仰臥位の自然の姿位にします。この事により機能障害部位が、加える動きや力に対し容易に反応するようになります。頚椎の1~2番を触診しsmになる方向に、僅かな圧迫と捻転を加えて3~4秒維持する。そしてリリース(解放)し、更にsmな方向に動きやすいポジションに持って行きます。
患者さんを再評価すると、診断可能な組織が緩んでいる事や、関節の可動域に関わる筋肉が緩んでいるのを確認できます。話しは違いますが、上部頚椎を矯正する別な方法としてターグルリコイルというテクニックがあります。
筋肉や組織の反射を誘発させないよう最小の力と素早いスピードで、正確な方向と接触によって矯正します。 アメリカのシャーマンカイロプラクティック大学では、ほぼ6年間かけて、上部頚椎の理論技術を学ぶ専門的で高度なテクニックです。
促通位リリースは、物質的な身体へのアプローチでしたが、今回のテーマ、嚙み(神)合わせとして、精神的な身体に対するアプローチをしています。
杉山 勲先生の著書に、生命体は陰陽の交わりとその調和により成り立っています。
生命体は自然も人も陰陽の比率を変化させながら営みを続けている。と書かれています。
大切な事は陰と陽の比率の変化を感じる事です。
100%陰はないし、100%陽もないです。
私は患者さんに触れながら患者さんの魂(先天的知能)を4タイプに分けています。
古典の陰陽論を参考にして、陰中の陰(女性の中の女性性)、陰中の陽(女性の中の男性性)、陽中の陰(男性の中の女性性)、陽中の陽(男性の中の男性性)・・この場合肉体的な男女は考えないで下さい。 健康な時は、この4タイプがバランスよく共存していると考えます。
何かの病気になった時、この4タイプの1つが特化してしまいます。(偏りがある)
患者さんが、今どのタイプに特化しているかを感じ取り、施術者がどうにかするのではなく寄り添うようにします。
施術者自身は神(森羅万象を司る宇宙の働き、叡智)に委ねて患者さんの変化を見つめ続けるようにします。(ユニバーサル・インテリジェンスとも言う)身体は物理的、精神的でも外から加えられた力に対して包括的に反応します。
施術者と患者さんとの固有受容器的なやり取りを増幅するのにこの方法は役立ちます。指を通して得られるメッセージを視覚化し合成することが基本になります。
患者さんに同調し過ぎて組織の細かい変化を見逃してしまう時にリセットする方法があります。それは自分の臭いを嗅ぐ事です。
コ-ヒ-のテイストをするバリスタの方が何度も数種類の味を試していて舌や鼻が麻痺しそうな時に自身の臭いを嗅ぐと脳がリセットされてまた感覚が戻るらしいのです。この方法は治療師にも使えます。
終わりに
現在は月1~2回、メンテナンスのため治療を続けています。 患者さんは仕事柄姿勢が前かがみになり胃を圧迫しやすく、胃酸過多になったり、自律神経の乱れで睡眠が取り難い時もあります。
その度に灸や鍼で施術するのですが、東洋医学の有効性を感じて下さっているそうです。まだまだ 優れた治療はあるでしょうからFT塾の先生方と共に研鑽を積んで行きたいと思っています。
参考文献
一生使える鍼灸ノート 杉山勲著 源草社
嚙み合わせと頸椎の関係 小早川歯科口腔外科クリニックのブログより
オステオパシ-総覧 エンタプライズ社