FTを学んで30年
FTを学んで30年
FT塾講師 神林 一隆
先日NHKのフロンティアという番組で、世界で東洋医学を科学的に証明しようとする研究者の方々が紹介されていました。
鍼灸の分野では足三里にお灸をする事により刺激が信号として脳に伝わり、迷走神経を介して副腎からドーパミンなどの神経伝達物質が放出され、身体を巡り炎症作用を抑える事がわかって来たそうです。
漢方薬はドイツの研究者が生薬を分析し、癌の治療薬を開発しているそうです。また、発見された5000年前のミイラ( 通称アイスマン)の身体を調べた所、ツボに入れ墨で治療していた痕跡があるとの事で、先人は経験的に自分自身の身体を良くする方法を知っていたというのです。
今回番組を録画しましたので見たい方は声をかけて下さい。
世界で鍼灸や漢方が注目されている中で、入江フィンガーテストは将来性のある診断、治療法だと思います。
基礎科を卒業されたばかりの先生から、臨床歴数十年の先生方までおられるので、幾らかでもお役に立てそうな事を書いてみようと思います。
-診断について-
入江式脈診部を取穴する場合、少し手首を反らせて取るようにして下さい。数ミリのズレでも診断が違ってしまう事もあります。患者さんの指の尺度でCD ABラインを見つけて下さい。
分かり難い時は目安をつけて印をつけ、薄い銅板で印をつけた周辺をFTしstになった所がCD ABラインになります。
またCD ABラインを S 1 センサーで触れる時は必ず垂直に当てて下さい。
S 1センサーの指の合わせ目をCDラインでは横に ABラインでは縦に当てると分かりやすいです。( 円筒磁石等を置く方法に準じます)
高橋先生に教わったのですが、診断で使う円筒磁石等は自分にとってsmなものを使う。
但し smな磁石でも細かくFTすると1箇所だけstな部分があるので、その部分を患者さんの皮膚面に接触させない事。
脈診部にstな部分を接触させてしまうと診断し辛くなるようです。
最近はスマホなどの電磁機器の影響なのか、指先や手掌の感覚がシャープでなくなっている気がします。
施術中は携帯の電源を切ってもらうか機内モードにしましょう。
円筒磁石等での診断は手際よく、何分も同じ部位に置き続けない事。円筒磁石は異常増幅装置なので、長く置いているとシャープに反応しなくなります。
入江先生は取穴する時も焼鍼をする時も、必ずペンで印をつけていました。(慣れてしまうと省きがちです)ツボを見つける時はFTだけでなく指頭感覚を大切にする事です。
経脈を擦って指の止まる所、凹みの中にある硬結などを捉える事です。また入江式の原穴、絡穴は成書と少し違う取穴がありますので再度確認して下さい。
入江先生は 講義では五分鍼を使っていました。
理由を尋ねた事はないのですが、刺入時に真っ直ぐ鍼先が立ちやすい事や、IPを結線し易かったと思います。
IP治療にしても置鍼にしても、同じ姿勢を保って頂くので、患者さんが楽な姿勢を取られてから刺鍼して下さい。
三焦経や小腸経は肘を曲げて体幹部に手を置いてもらうのも一つの方法です。
刺鍼してIPを結線し、スイッチをsmな方に倒すと、脈診部や四海、愁訴部などsmになります。
あれ!ならない?
確認すべき事は、両腕の付け根、両鼠径部の周辺をFTします。 4箇所の中で stな所があった場合は取穴が違っています。
例えば右鼠径部がstな場合は右足の取穴を見直し再度刺鍼して下さい。またIP結線しても全体的にsmとは言えない場合があれば、結線したまま焼鍼で補足治療をします。
IPの補瀉に従い流注に沿って補瀉の焼鍼治療をします。
全体的にsmになります。
これは入江先生が実技で教えて下さった方法です。
-誤治について-
もし誤治をしてしまったらどのような状態になるでしょうか。
脈診部は全体的にstになります。四海、腹診部もstになります。
患者さんの症状も、呼吸が苦しくなったり筋肉や組織が緊張して来る事もあります。
これも入江先生の講義で教えて頂いた事ですが、誤治をすると奇経の脈が出てくる事があります。経験的に任脈と督脈のペアが多いようです。
その場合は、後谿・申脈、列欠・照海に刺鍼して下さい。
IPをする場合は特に慎重にFTして下さい。左右同側か、対側に取穴するかは重要です。
治療後は患者さんの症状が落ち着いてきますし、脈診部もsmになっています。
-標治法について-
FTにて脊柱の触診、音素診で歪みのある椎骨を、鍼灸、マグレイン、焼鍼で治療します。
愁訴のある部位は、その部位が痛みの原因になっている場合と、なっていない場合があります。
患部を治療して症状が改善しない時は、色布を当てて stになる経脈の治療が必要です。
外傷の場合、捻挫や打撲の周辺にst が円状に広がる事があります。気円と言います。
気円内は補瀉の境界線が分かり辛かったり、流注も乱れていますので、FTにて補瀉を見極め、皮内鍼をしたりsmな方向を探して焼鍼をして下さい。
-ポジションニングによる鍼-
鍼の太さや長さを使い分けたり、どの角度でどれ位の深さの刺鍼をするかは、よく話題になりますが、患者さんの姿勢や肢位(ポジショニング)を良い状態に変える事で効果が期待できます。
例えば骨盤でしたら、足裏を合わせて徐々に膝を屈曲してもらい、腸骨が動き出す直前の姿勢でFTすると仙腸関節のsm、stが分かり易くなります。
腰椎は側臥位にて脊柱をFTし、stな 椎骨をセンサーにして、上側の膝を屈曲させて一番smな肢位で固定します。
次に上側の上腕部を下内方に引くと、上腕と共に体幹が回旋しますので、先程当てたセンサーがsmになる角度まで回旋し固定します。
関節の遊びが取れ、椎間関節が動きやすい肢位にします。次に鍼管を当ててsmになる角度で刺入します。深さもFTで決めて下さい。切皮だけで良い事もあります。
胸椎は座位にてstな椎骨にセンサーを当てて一番 smになる肢位を見つけて刺鍼します。
頸椎は可動性が大きいので 仰臥位にてstな頸椎にセンサーを当て、屈曲、伸展させ 一番 smな角度を見つけたら下に枕を当ててその角度で固定します。
次に側屈で一番sm 、最後に回旋で一番 smの肢位を保ちます。鍼管を当てて smになる角度で刺入して下さい。文章だけでは分かり辛いので、改めて講義の中で実技をします。
-押してダメなら引いてみる-
整膚という技術があります。身体のツボを見極めて皮膚を優しく引っ張っていく施術です。
身体の内側をゆっくり刺激し、徐々に緊張をほぐします。効果として局所の新陳代謝を活発にして疲労物質を取り除く、全体の血流の促進。 名古屋の徐 堅先生の著書が出ていますので読んでみて下さい。
通常の治療をして患者さんに状態を確認した時、残存した痛みや違和感があればFTでstな部位を探りsmになるように優しくつまんで離す事を繰り返します。
殆どの場合改善します。
心地良い治療なので自己治療にもおすすめです。
-もし 診断に迷ったら-
同じ 患者さんでも毎回脈証は違う事も多々あります。術者側も生身ですので、体調により診断に迷う時もあるでしょう。
そういった場合、普段smに感じるものを治療室内に置いておき、診断に迷った時などそのsmな物を触るとstに感じる時があります。
今感性が正常に働いていないサインです。入江式ブラッシングか、一旦治療ベッドを離れてリセットして下さい。
深呼吸 やアーシング(グラウンディングとも言い、裸足で地面に触れたりして大地と繋がる事)などして再度診断して下さい。
私はリセットに火打石を使います。
一瞬で場が整い診断し易くなります。
FTは相対的な診断なので、自身がきちんとニュートラル出来ていないと診断は迷います。
-臨床歴の長い先生方-
人間は身体という物体を保有しています。これは人間本来の一つの側面でしかなく、我々の世界は目で見て診断の出来る物理空間の他に、目には見えない情報空間という2つの空間内に存在しています。
人の想いは物理空間には存在しないですが情報空間に存在します。想いは情報空間内で形となって飛ばされ、そういったものが想念と言われます。
また以心伝心という言葉がありますが、情報空間を通して行
われます。
FTは「からだとの会話」と入江先生がおっしゃっていましたが、別の色紙に「心との会話」と書かれたものがありました。
書き間違い? 多分両方 真実だと思います。物理空間は肉体を司ります。
情報空間は霊的なからだと精神的なからだの2つで成り立っています。
霊的なからだ(霊体)は意識や直感を司ります。精神的なからだ(幽体)は欲望、 意志、想いを司ります。2つを合わせて生命場[スピリチュアルボディ]と言います。
物理空間の身体は通常の入江FTシステムで治療します。
情報空間の治療は、ある図形や道具を使い物理空間の肉体と情報空間の生命場〔スピリチュアルボディ〕(霊体、幽体)を繋ぎ、膻中と臍の中間にある太陽神経叢(ガットフィーリング)と言われる部位で診断します。
その場合入江式色布を使います。入江FTシステムを主軸に生命場を整えるケアを加え調整する事で2つの空間を治療できます。
(フロンティア45号で生命場へのアプローチは書きました)情報空間を感じるようになるには訓練が必要ですが、瞑想や気力、体力を整える方法や他の方法もあります。
フィギュアスケートの羽生 結弦選手のトレーナーを長年勤めていた菊池 晃先生は柔整学校の同級生でした。彼は 拳法の高段者で「チャクラの仙人」と呼ばれていました。
そのメンテナンス方法は独創的だったので、周りの方々には不思議に映ったのではないでしょうか。
羽生選手の才能と努力は勿論ですが、菊池先生の物理空間、情報空間を網羅したケアが前人未到の偉業をなし遂げたのだと思います。
-最後に-
冒頭に書きましたが 世界中の研究者の方々の努力により鍼灸、漢方は「東洋の神秘」というイメージから科学的根拠に基づく医療になって行くかも知れません。
私自身に出来る事は「東洋医学原論」を基に自分なりの仮説を立てて、それを実践で積み重ね、その成果を臨床に適用し確かめ法則とし、これを繰り返して 精度を高めて行く事です。
将棋の永世七聖、羽生 善治さんは「一つの事を10年、20年、30年、同じ情熱、同じ姿勢を続けられる事が才能であろう」と言っています。
長年学んできた専門的な知識や技術を出来るだけ分かりやすい言葉と施術で患者さんにお伝えする事がプロの仕事であると思います。
1人でも多くの患者さんの体調が良くなって鍼灸治療を納得してもらえるよう精進したいと思います。
参考文献
保坂 昌利 ブログより